"多様性"が高まっていく社内。この変化をどう受け入れればいいですか?

HDEでは、ここ2年で社員数が1.5倍に増え、4年前はゼロだった外国人社員も今では全体の2割を超えるほど急速な成長を目の当たりにしています。 近年、女性の活躍、働き方改革などの文脈でも頻繁にキーワードとして登場する"多様性"。 いま、HDEが直面する"多様性"をどう受け入れていけばいいか、その場合、どのような組織開発が必要になるか? 宮本が、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップを研究する、立教大学 経営学部 中原 淳教授にお話を伺いました。
ご無沙汰しております。

先生とは、5年くらい前に、先生がやられている「経営学習研究会(*1)」のイベントでお会いしましたよね。確か、「イベント中の様子を写真で撮って、その写真をイベントの最後でスライドショーで流す」という試みをやられていて、先生と私で一緒にカメラ担当をしました。
ご無沙汰しております。一緒に写真を撮りましたね。
改めまして、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
はい、どうぞよろしくお願いします。
さて、先生の専門が組織開発でいらっしゃるので、私たちが直面している課題と、先生の専門分野とがクロスしそうなテーマをいくつかピックアップしてきました。
なるほど。
ここからいくつかピックアップしながら、先生のアドバイスを頂戴する場になればと思っています。
分かりました。

グローバル化=飲みニケーション&社員旅行の復活?

まずどれからいきましょうか。
どれか気になるのありますか?
これが気になりますね。「グローバル化=飲みニケーション&社員旅行の復活?」
では、ここからいかせていただきます。

これはアジアの国から来ている女性社員からの訴えの話なんですが、「もっとみんなで飲みに行ったりしたい」「社員旅行をやってほしい」とリクエストされています。面談のたび。
なるほど。飲みニケーションと社員旅行ですね。
他方、女性活躍の方のダイバーシティの観点から、夜の飲み会は減らしてきているんですよね。子育て時短中だと参加できないですから。で、飲みニケーションに代わるものとして、お昼の時間にシェフを呼んで、「コミュニケーションランチ」なるものを設定したりもしているのですが・・・。
それだと海外メンバーからは物足りないと。
今の日本の社風はドライすぎる、付き合いの多い母国の会社の雰囲気の方が好きだということですね。外国の方たち、特にアジアの方を快く迎え入れるためには、今の潮流と一部逆行する必要があるのかも、と感じています。
確かにタイやフィリピンの人たちはインフォーマルなコミュニケーションを好むと言うのは聞いたことがあります。誕生日とか、年がら年中パーティーしている様子を海外にいるマネージャー陣からも聞きますよ、日本じゃちょっと考えられないですけど。
会社としてどのような立ち位置で折り合いをつけていくか、あるいはどちらも両立するためにバリエーションを増やしていくのか、悩んでいる状況です。
まとめると、飲みニケーションだと男性しか参加できないから育児中のママや介護中の人などに対応すべく、多様性を求めてランチにしたけど、その外国人の方にとっては物足りなかったと。
新たな多様性に直面したわけですね。
はい。その通りです。
今回のお話であれば、どちらかを優先する「A or B」にするか、両立する方向の「A B」にするか、のどちらかしか選択肢がないわけですが、どちらの方が経営的にはメリットがあるのでしょう?
今はまだ日本人社員の方が多いのでドライなほうが、不満を感じる人は少なそうなのですが、これからダイバーシティがより広がっていくことを考えると、単に今の状況だけを元にどちらかに倒すのは難しいです。
日本人社員がメインかつ人口が多いのであれば、Aを捨てることはできないでしょうし、一方でインフォーマルなコミュニケーションを好む人たちをどうフォローするかと考えるなら「A + B」で両立するしかないですよね。

であれば、みんなと仲良くしたい、飲み会の場が欲しいと言っている人たちにデザインさせちゃえば良いんじゃないでしょうか。
中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)

東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、
米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学 大学総合教育研究センター等をへて、2018年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。

欲しい人にやらせてみる、ということですか。
どうすれば居心地がいいかはその人自身が一番分かっているはずだから、そんな場を1つ作ってみてよと言ってみればいい。
うまくいきますかね。
大変だと思います。ただ、その場を作っていく過程が実は仲良くなる場だと思うし、会社やメンバーのことを理解するプロセスになると思います。
なるほど。飲みニケーションや社員旅行の場を作っていく過程こそが、ダイバーシティによるバリアを乗り越える助けになる、ということですね。
社員旅行や社員運動会はこの1,2年流行ってきてます。

一時期は減っていましたが、一回りして戻ってきた感じで、都内だと武道館とか大きい会場を借り切って社員運動会をやるような会社がまた増えてるんです。でも、すこし残念なのは、そうしたプロセスを、すぐに「外注」してしまうのですね。専門の会社がプロデュースしたりするんです。でも、祭りの本当の意味から考えれば、本当は「祝祭」を作っていくプロセスこそが「祝祭」なんですよね。
作るプロセス楽しいですよね。
祭りって、本来、集団を維持・形成するために、原始共同体に埋め込まれた出来事です。元々「自分たちが自分たちのためにするもの」が「祭り」でした。

しかし、近代以降は、どんどんそれが外部化されて、誰かがやるものであり、見るものになってしまったわけです。だけど、祭りを「見る側」だけになっちゃうのって、祝祭の本質からずれているなって感じるときが僕にはあります。

だから、自分たちが属するコミュニティ、共同体を継続させたいんだったら、自分たちが楽しいような場を自分たちで作るのが大事なんじゃないかなって個人的には思うんですよね。
そういう観点からも、やりたいと言っている人にやらせてみるっていうのは的を射ているソリューションかもしれませんね。
外部の人にやらせるよりお金もかからないですしね。
色んなハレーションは起こるでしょうけれど(笑)

副業は越境の延長線上か?

さて、次の話題に移りたいと思います。
ここ最近話題の副業についてお聞きしたいと思います。
はいどうぞ。
よく中原先生は「自分のコミュニティを超えて学習すること=越境」という表現を使われますよね。
はい。組織外で色んなことを学んで、持ち帰るという意味で使っています。
最近、副業や兼業の話題が注目を集めていますが、それらは越境の延長線上にあるものだと思いますか?
長い目で見たら越境は副業に繋がるってことはあるんじゃないかなと思いますけど、僕が気になってるのは副業・兼業というイメージが世の中で一様じゃないなってことですね。
といいますと?
宮本 和明(株式会社HDE 代表取締役 副社長)

1973年愛媛県生まれ。東京大学理科一類から文系に転向、文学部言語文化学科(国文学)卒業。 創業メンバーの一人としてHDE初期プロダクトのUI設計に従事し、97年11月の株式会社への組織変更をきっかけに代表取締役副社長に就任。 その後数年おきに直接部門と間接部門の行ったり来たりを繰り返し、現在はクラウドサービスの運用部門と人事部門を並行して担当。 部下を怒るのが大の苦手で、生まれてこの方一度も部下を怒ったことがない。最近なぜか「実はあの人は怖いらしい」という噂が流れていることを察知したが、都合がいいので噂はそのまま放置中。ここ数年で海外から来たメンバーも部下に入り、マネジメントは個人的にも会社的にも新しい局面に差し掛かっている。

自分の持っているスキル、専門性を自分の会社と違うところで活かす、みたいなことが僕の思う副業・兼業なんですけど、本業とは全く関係ない分野の仕事で、時間を切り売りする労働を行うことが、副業・兼業であるというイメージもありますよね。たとえば、サラリーマンの方が、外食や小売でアルバイトをするイメージです。

専門性を伸ばすために兼業するのと、時間を切り売りして兼業しようっていう世界じゃ、全然、世界観が異なるような気もします。問題は、副業・兼業とは何のために、何をするのか、というイメージがズレていることです。この議論ってまだまだ煮詰まっていないんですよね。
確かに。議論が煮詰まっていない中で、厚生労働省が今までのモデル就業規則の中ではNGだった副業・兼業を単純にOKと変えてしまいましたが、混乱を招いているというか、社会的な議論が足りていないように感じています。
副業・兼業って週40時間働く中でやることなのか、それ以上のところでやるかという議論もありますよね。ただ、それ以上のところでやるというのは、あまり想定されていないような気がするのです。でも、これは早晩問題になるのではないでしょうか。

たとえば、極端な話、A社で働いていた人が、自分のスキルを活かすために、B社でも働いていました。そのときに、合計で40時間を超過してしまったとします。たとえばB社で、何か、健康にかかわるような労働問題がおこりました。その場合、どこが責任取ればいいのでしょうか。その際、労務管理を行わなければならないのは、A社でしょうか、それともB社でしょうか、その両方でしょうか。そういう議論が、まだ煮詰まっていない気がします。
B社で起こった問題に対してA社では責任は取れないけど、B社で働くことに対してA社が兼業申請をさせるわけだから、B社でやっていることをA社に報告する必要もあるといったケースですよね。
はい。非常に複雑な人事管理になるので、一つ一つのケースを判断していく必要があると思います。

そもそも、昔はみんな農村で働いていたわけじゃないですか。それが工場で働くようになって、高度経済成長期に会社で働くようになって、一社で定年まで働き続けるということが常態化するようになったのは、歴史では100年もない、せいぜい50年くらいのものなんですよ。

それをこれからは、「あなたの生計は仕事を組み合わせていくモザイク型でいいですよ」と言っているわけだから、50年かけて作ったものをアンインストールしていく作業なんですよね。
社会実験として時間とコストがかかりそうですね。
教育の分野で、今から学習指導要領を変えますと言ったって実際変わるのは2、30年経ってからだったりしますよね。

働き方だって同じで、この国における労働慣行、就業観とか、いま現在みんなの頭にあるものがアンインストールされないことには変わらないんです。
アンインストールされるというのはつまり、世代が変わる、今の世代がメインストリームになっていくってことだと思いますよ。
時間をかけて見ていく必要がありそうですね。
そうだと思います。

フィードバックにランゲージバリアはあるか?

最後にどうしてもお聞きしておきたい話題があります。
昨年、先生も何冊かこのテーマで本を出されていらっしゃいますが...。
フィードバックについてですね。
はい。外国人社員の話に戻りますが、外国人社員が増えていく中で、彼らへのフィードバックの方法をどうしていくべきかもこれからの課題と考えています。

現時点では、日本人と同じようにフィードバックするのではなく、こういう点は強めに言った方がいい、弱めに言った方がいいというのをなんとなく感じてはいるのですが、それが個人によるものなのか、その人のお国柄の問題なのか、というのがまだ分かりません。
その人の持っている文化背景によって、避けたほうがいい表現はあるかもしれませんね。
あと、文化に関する一般的知識は、ないよりはあったほうがいいのかもしれません。
一度ちゃんと勉強したほうがいいですね。
ちょうど最近、Erin Meyerさんの『異文化理解力』を読み始めたところです。
文化に関する知識はないよりも、あったほうがいいけれど、基本は「相手を見ること」「相手の立場にたって考えること」しかないのだと思います。目の前にいる社員に対して、それが文化によるものなのか、個人によるものなのか見極めるしかないのです。そのためには、リーダーは「観察」を怠らないことでしょうね。
その通りです。文化背景による違いを学んで参考にしつつも、一人ひとりをきちんと見るということですね。
社員にフィードバックを行うマネージャー陣で問題点を共有できれば盛り上がるかもしれないですよ。マネジャーって、やっぱり「孤独」なんだと思います。やりくりするしかないような無理難題が、いつも現場で生まれて、日々、右往左往している。だから、マネジャーたちが集まって、自分の課題を赤裸々に語ったりすることができたりできれば、ずいぶん、気は楽になるのではないかと思います。大切なことは、マネジャーを「孤独」にしないことではないでしょうか。
参考になります。社内でやってみたいと思います。ちなみに、社外からも事例を聞いて、悩みを共有したりもしたいんですけど、同じような事例のある企業はないでしょうか。あまり見つけられなくて・・・。先生が見られている企業さんで同じような悩みを持たれているところってありますか?
ホワイトカラーで、外国人社員が2割を占めていて、日本語を話せることはマストの条件ではない日本企業ってことですよね。
はい。
ないんじゃないですか?
ないですか・・・。
ないですね。今の日本企業での外国人採用って、日本語が話せる前提ですね。だから、御社は「課題先進地」として、そこを売り物にするといいんじゃないでしょうか。そこで起こったことこそこれからの日本が辿る道だと思うし、そういう企業はこれから増えていくと思いますよ。
なるほど。
今まで話してきましたが、多様性って面倒くさいものなんですよ。
自分が今まで乗っていた卓袱台をひっくり返されるのって不快でしょう?
もう一回ゼロからやらなきゃいけないし、対応する身としては空気読んでよって言いたくなるかもしれないけれど、これからの社会は多様性といい付き合いをしていかないと、人が採用できないとか、事業が継続できない方向になるんじゃないですかね。

今の働き方改革の文脈ってやはり育児、共働きでの女性の話がメインであって、そこにリモートやクラウド的な働き方、その先にあるのが日本語を話せることが前提の外国人採用の話かなと思うので、御社がやっていることはかなり先にあるものだし、かなりの社会実験じゃないですか。

僕はEDUCATION(教育)=EXPERIMENT(実験)だと思っていて、これからの世の中はどんどん実験できる場所が減っていくから、今のような環境で何が起こっていくのか、ぜひ記録を残していってほしいですね。
記録・・・。先生みたいに、ブログでも書くといいですかね。(*2)
そうですね。ただ、実践しながら記録するのは難しいから、記録者を立てるか、記録できるような仕組みを何か作ったほうがいいかもしれませんね。
そして、課題先進地として、いつか本を出してください(笑)
ありがとうございます。本を出すところまでできるかどうか分かりませんが・・・。
それでは、本日はありがとうございました。
がんばってください。
*1 「これからの人材開発・人材育成を面白くする」ことを目指して設立された非営利の一般社団法人。通称MALL。中原氏が代表理事
*2  中原氏のBlog

"多様性"が高まっていく社内。この変化をどう受け入れればいいですか?

HDEでは、ここ2年で社員数が1.5倍に増え、4年前はゼロだった外国人社員も今では全体の2割を超えるほど急速な成長を目の当たりにしています。 近年、女性の活躍、働き方改革などの文脈でも頻繁にキーワードとして登場する"多様性"。 いま、HDEが直面する"多様性"をどう受け入れていけばいいか、その場合、どのような組織開発が必要になるか? 宮本が、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップを研究する、立教大学 経営学部 中原 淳教授にお話を伺いました。
ご無沙汰しております。

先生とは、5年くらい前に、先生がやられている「経営学習研究会(*1)」のイベントでお会いしましたよね。確か、「イベント中の様子を写真で撮って、その写真をイベントの最後でスライドショーで流す」という試みをやられていて、先生と私で一緒にカメラ担当をしました。
ご無沙汰しております。一緒に写真を撮りましたね。
改めまして、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
はい、どうぞよろしくお願いします。
さて、先生の専門が組織開発でいらっしゃるので、私たちが直面している課題と、先生の専門分野とがクロスしそうなテーマをいくつかピックアップしてきました。
なるほど。
ここからいくつかピックアップしながら、先生のアドバイスを頂戴する場になればと思っています。
分かりました。

グローバル化=飲みニケーション&社員旅行の復活?

まずどれからいきましょうか。
どれか気になるのありますか?
これが気になりますね。「グローバル化=飲みニケーション&社員旅行の復活?」
では、ここからいかせていただきます。

これはアジアの国から来ている女性社員からの訴えの話なんですが、「もっとみんなで飲みに行ったりしたい」「社員旅行をやってほしい」とリクエストされています。面談のたび。
なるほど。飲みニケーションと社員旅行ですね。
他方、女性活躍の方のダイバーシティの観点から、夜の飲み会は減らしてきているんですよね。子育て時短中だと参加できないですから。で、飲みニケーションに代わるものとして、お昼の時間にシェフを呼んで、「コミュニケーションランチ」なるものを設定したりもしているのですが・・・。
それだと海外メンバーからは物足りないと。
今の日本の社風はドライすぎる、付き合いの多い母国の会社の雰囲気の方が好きだということですね。外国の方たち、特にアジアの方を快く迎え入れるためには、今の潮流と一部逆行する必要があるのかも、と感じています。
確かにタイやフィリピンの人たちはインフォーマルなコミュニケーションを好むと言うのは聞いたことがあります。誕生日とか、年がら年中パーティーしている様子を海外にいるマネージャー陣からも聞きますよ、日本じゃちょっと考えられないですけど。
会社としてどのような立ち位置で折り合いをつけていくか、あるいはどちらも両立するためにバリエーションを増やしていくのか、悩んでいる状況です。
まとめると、飲みニケーションだと男性しか参加できないから育児中のママや介護中の人などに対応すべく、多様性を求めてランチにしたけど、その外国人の方にとっては物足りなかったと。
新たな多様性に直面したわけですね。
はい。その通りです。
今回のお話であれば、どちらかを優先する「A or B」にするか、両立する方向の「A B」にするか、のどちらかしか選択肢がないわけですが、どちらの方が経営的にはメリットがあるのでしょう?
今はまだ日本人社員の方が多いのでドライなほうが、不満を感じる人は少なそうなのですが、これからダイバーシティがより広がっていくことを考えると、単に今の状況だけを元にどちらかに倒すのは難しいです。
日本人社員がメインかつ人口が多いのであれば、Aを捨てることはできないでしょうし、一方でインフォーマルなコミュニケーションを好む人たちをどうフォローするかと考えるなら「A + B」で両立するしかないですよね。

であれば、みんなと仲良くしたい、飲み会の場が欲しいと言っている人たちにデザインさせちゃえば良いんじゃないでしょうか。
中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)

東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、
米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学 大学総合教育研究センター等をへて、2018年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。

欲しい人にやらせてみる、ということですか。
どうすれば居心地がいいかはその人自身が一番分かっているはずだから、そんな場を1つ作ってみてよと言ってみればいい。
うまくいきますかね。
大変だと思います。ただ、その場を作っていく過程が実は仲良くなる場だと思うし、会社やメンバーのことを理解するプロセスになると思います。
なるほど。飲みニケーションや社員旅行の場を作っていく過程こそが、ダイバーシティによるバリアを乗り越える助けになる、ということですね。
社員旅行や社員運動会はこの1,2年流行ってきてます。

一時期は減っていましたが、一回りして戻ってきた感じで、都内だと武道館とか大きい会場を借り切って社員運動会をやるような会社がまた増えてるんです。でも、すこし残念なのは、そうしたプロセスを、すぐに「外注」してしまうのですね。専門の会社がプロデュースしたりするんです。でも、祭りの本当の意味から考えれば、本当は「祝祭」を作っていくプロセスこそが「祝祭」なんですよね。
作るプロセス楽しいですよね。
祭りって、本来、集団を維持・形成するために、原始共同体に埋め込まれた出来事です。元々「自分たちが自分たちのためにするもの」が「祭り」でした。

しかし、近代以降は、どんどんそれが外部化されて、誰かがやるものであり、見るものになってしまったわけです。だけど、祭りを「見る側」だけになっちゃうのって、祝祭の本質からずれているなって感じるときが僕にはあります。

だから、自分たちが属するコミュニティ、共同体を継続させたいんだったら、自分たちが楽しいような場を自分たちで作るのが大事なんじゃないかなって個人的には思うんですよね。
そういう観点からも、やりたいと言っている人にやらせてみるっていうのは的を射ているソリューションかもしれませんね。
外部の人にやらせるよりお金もかからないですしね。
色んなハレーションは起こるでしょうけれど(笑)

副業は越境の延長線上か?

さて、次の話題に移りたいと思います。
ここ最近話題の副業についてお聞きしたいと思います。
はいどうぞ。
よく中原先生は「自分のコミュニティを超えて学習すること=越境」という表現を使われますよね。
はい。組織外で色んなことを学んで、持ち帰るという意味で使っています。
最近、副業や兼業の話題が注目を集めていますが、それらは越境の延長線上にあるものだと思いますか?
長い目で見たら越境は副業に繋がるってことはあるんじゃないかなと思いますけど、僕が気になってるのは副業・兼業というイメージが世の中で一様じゃないなってことですね。
といいますと?
宮本 和明(株式会社HDE 代表取締役 副社長)

1973年愛媛県生まれ。東京大学理科一類から文系に転向、文学部言語文化学科(国文学)卒業。 創業メンバーの一人としてHDE初期プロダクトのUI設計に従事し、97年11月の株式会社への組織変更をきっかけに代表取締役副社長に就任。 その後数年おきに直接部門と間接部門の行ったり来たりを繰り返し、現在はクラウドサービスの運用部門と人事部門を並行して担当。 部下を怒るのが大の苦手で、生まれてこの方一度も部下を怒ったことがない。最近なぜか「実はあの人は怖いらしい」という噂が流れていることを察知したが、都合がいいので噂はそのまま放置中。ここ数年で海外から来たメンバーも部下に入り、マネジメントは個人的にも会社的にも新しい局面に差し掛かっている。

自分の持っているスキル、専門性を自分の会社と違うところで活かす、みたいなことが僕の思う副業・兼業なんですけど、本業とは全く関係ない分野の仕事で、時間を切り売りする労働を行うことが、副業・兼業であるというイメージもありますよね。たとえば、サラリーマンの方が、外食や小売でアルバイトをするイメージです。

専門性を伸ばすために兼業するのと、時間を切り売りして兼業しようっていう世界じゃ、全然、世界観が異なるような気もします。問題は、副業・兼業とは何のために、何をするのか、というイメージがズレていることです。この議論ってまだまだ煮詰まっていないんですよね。
確かに。議論が煮詰まっていない中で、厚生労働省が今までのモデル就業規則の中ではNGだった副業・兼業を単純にOKと変えてしまいましたが、混乱を招いているというか、社会的な議論が足りていないように感じています。
副業・兼業って週40時間働く中でやることなのか、それ以上のところでやるかという議論もありますよね。ただ、それ以上のところでやるというのは、あまり想定されていないような気がするのです。でも、これは早晩問題になるのではないでしょうか。

たとえば、極端な話、A社で働いていた人が、自分のスキルを活かすために、B社でも働いていました。そのときに、合計で40時間を超過してしまったとします。たとえばB社で、何か、健康にかかわるような労働問題がおこりました。その場合、どこが責任取ればいいのでしょうか。その際、労務管理を行わなければならないのは、A社でしょうか、それともB社でしょうか、その両方でしょうか。そういう議論が、まだ煮詰まっていない気がします。
B社で起こった問題に対してA社では責任は取れないけど、B社で働くことに対してA社が兼業申請をさせるわけだから、B社でやっていることをA社に報告する必要もあるといったケースですよね。
はい。非常に複雑な人事管理になるので、一つ一つのケースを判断していく必要があると思います。

そもそも、昔はみんな農村で働いていたわけじゃないですか。それが工場で働くようになって、高度経済成長期に会社で働くようになって、一社で定年まで働き続けるということが常態化するようになったのは、歴史では100年もない、せいぜい50年くらいのものなんですよ。

それをこれからは、「あなたの生計は仕事を組み合わせていくモザイク型でいいですよ」と言っているわけだから、50年かけて作ったものをアンインストールしていく作業なんですよね。
社会実験として時間とコストがかかりそうですね。
教育の分野で、今から学習指導要領を変えますと言ったって実際変わるのは2、30年経ってからだったりしますよね。

働き方だって同じで、この国における労働慣行、就業観とか、いま現在みんなの頭にあるものがアンインストールされないことには変わらないんです。
アンインストールされるというのはつまり、世代が変わる、今の世代がメインストリームになっていくってことだと思いますよ。
時間をかけて見ていく必要がありそうですね。
そうだと思います。

フィードバックにランゲージバリアはあるか?

最後にどうしてもお聞きしておきたい話題があります。
昨年、先生も何冊かこのテーマで本を出されていらっしゃいますが...。
フィードバックについてですね。
はい。外国人社員の話に戻りますが、外国人社員が増えていく中で、彼らへのフィードバックの方法をどうしていくべきかもこれからの課題と考えています。

現時点では、日本人と同じようにフィードバックするのではなく、こういう点は強めに言った方がいい、弱めに言った方がいいというのをなんとなく感じてはいるのですが、それが個人によるものなのか、その人のお国柄の問題なのか、というのがまだ分かりません。
その人の持っている文化背景によって、避けたほうがいい表現はあるかもしれませんね。
あと、文化に関する一般的知識は、ないよりはあったほうがいいのかもしれません。
一度ちゃんと勉強したほうがいいですね。
ちょうど最近、Erin Meyerさんの『異文化理解力』を読み始めたところです。
文化に関する知識はないよりも、あったほうがいいけれど、基本は「相手を見ること」「相手の立場にたって考えること」しかないのだと思います。目の前にいる社員に対して、それが文化によるものなのか、個人によるものなのか見極めるしかないのです。そのためには、リーダーは「観察」を怠らないことでしょうね。
その通りです。文化背景による違いを学んで参考にしつつも、一人ひとりをきちんと見るということですね。
社員にフィードバックを行うマネージャー陣で問題点を共有できれば盛り上がるかもしれないですよ。マネジャーって、やっぱり「孤独」なんだと思います。やりくりするしかないような無理難題が、いつも現場で生まれて、日々、右往左往している。だから、マネジャーたちが集まって、自分の課題を赤裸々に語ったりすることができたりできれば、ずいぶん、気は楽になるのではないかと思います。大切なことは、マネジャーを「孤独」にしないことではないでしょうか。
参考になります。社内でやってみたいと思います。ちなみに、社外からも事例を聞いて、悩みを共有したりもしたいんですけど、同じような事例のある企業はないでしょうか。あまり見つけられなくて・・・。先生が見られている企業さんで同じような悩みを持たれているところってありますか?
ホワイトカラーで、外国人社員が2割を占めていて、日本語を話せることはマストの条件ではない日本企業ってことですよね。
はい。
ないんじゃないですか?
ないですか・・・。
ないですね。今の日本企業での外国人採用って、日本語が話せる前提ですね。だから、御社は「課題先進地」として、そこを売り物にするといいんじゃないでしょうか。そこで起こったことこそこれからの日本が辿る道だと思うし、そういう企業はこれから増えていくと思いますよ。
なるほど。
今まで話してきましたが、多様性って面倒くさいものなんですよ。
自分が今まで乗っていた卓袱台をひっくり返されるのって不快でしょう?
もう一回ゼロからやらなきゃいけないし、対応する身としては空気読んでよって言いたくなるかもしれないけれど、これからの社会は多様性といい付き合いをしていかないと、人が採用できないとか、事業が継続できない方向になるんじゃないですかね。

今の働き方改革の文脈ってやはり育児、共働きでの女性の話がメインであって、そこにリモートやクラウド的な働き方、その先にあるのが日本語を話せることが前提の外国人採用の話かなと思うので、御社がやっていることはかなり先にあるものだし、かなりの社会実験じゃないですか。

僕はEDUCATION(教育)=EXPERIMENT(実験)だと思っていて、これからの世の中はどんどん実験できる場所が減っていくから、今のような環境で何が起こっていくのか、ぜひ記録を残していってほしいですね。
記録・・・。先生みたいに、ブログでも書くといいですかね。(*2)
そうですね。ただ、実践しながら記録するのは難しいから、記録者を立てるか、記録できるような仕組みを何か作ったほうがいいかもしれませんね。
そして、課題先進地として、いつか本を出してください(笑)
ありがとうございます。本を出すところまでできるかどうか分かりませんが・・・。
それでは、本日はありがとうございました。
がんばってください。
*1 「これからの人材開発・人材育成を面白くする」ことを目指して設立された非営利の一般社団法人。通称MALL。中原氏が代表理事
*2  中原氏のBlog